試合は早くも中盤、4回へ。
「 第四回。 打順は一番に戻ってマックネア、三球目をショート左に好打したが、名手苅田横っ飛び、逆シングルにこれをつかみ、つづくゲリンジャーはセカンドゴロに倒れる。
ルースが初めてセンター前にヒット、さては沢村の球威も衰え出したかと観衆は案じたが、後続のゲーリッグは二球目を平凡なセカンドゴロで、この回も無為。」
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「 第五回。五番フォックスは1球2球とストライクを見送って首をかしげ、つくづくマウンドの少年投手の顔をながめた。
沢村の投球フォームはますますみごとで、スピードは衰えるどころかむしろ一回目の打席のときよりも速くなっている。
ふしぎな小僧だと思っているうちに、またもや肩口から斬り込んだドロップがアウトコーナーへ落ち、思い切りスイングした彼の身体は空しく一回転してしまった。
つづくエブリルはセンターへ、ミラーはレフトへ、いずれも球勢に押された凡フライだ。」
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実は仙台での試合の翌日、神宮での第5戦に沢村は先発している。
結果はルースをはじめとする全米打線に11安打3ホームランの猛攻を浴びて10点を奪われる。全日本の打線もエース・ゴーメッツに2安打18三振でシャットアウトされている。
それでも沢村に対する大リーグ側の評価は高かったという。
そのあたりの事情を少し資料から考える…たとえばこの日米シリーズでの奪三振率を、「大戦前夜のベーブルース」から拾ってみると、
奪三振率=奪三振数×9÷投球回数
沢村・・・ 投球回数28.2/3 奪三振25 奪三振率7.85
ホワイトヒル・・・投球回数51 奪三振25 奪三振率5.29
ゴーメッツ・・・ 投球回数43 奪三振34 奪三振率7.12
伊達正男・・・ 投球回数18 奪三振6 奪三振率3
青芝健一・・・ 投球回数33.1/3 奪三振17 奪三振率4.59
沢村の奪三振率が、全米のエース、レフティ・ゴーメッツやホワイトヒル、全日本のエース伊達正男を上回り両軍投手陣トップである。
全米チームの日本ツアー気分や調整不足を考慮したとしても、デーゲーム、沢村の球種が直球とドロップの2つだけだったらしいことを考えれば、これは全くもう光彩が陸離っている。 沢村の資質の高さを存分に示すエピソードだろう。
沢村のストレートは160キロを超えていたとする説がある。
早すぎて目をつむって打っても同じだったとか、ホームベースの近く、手元でグッとでホップしたとか、バントしたボールが外野まで飛んでヒットになったとかの伝説も、ともに。
ドロップも直球と速さがほとんど変わらず3段に曲がったとか、懸河のような落差で一尺は落ちた…とかの形容があるが、この三振奪取率を見ると、シリーズ通算で防御率7.85と打ち込まれながらも、沢村の投球や将来性がそうそうたる大リーガーたちを瞠目させたのも納得できる気がする。
神宮の第5戦の後、13日に富山で行なわれた第7戦に、沢村は中二日で再び登板する。
試合は14対0で全米が圧倒。沢村は4回からのロングリリーフで8回までの5イニングを投げ、フォックスにホームランを打たれるなど4点を失うが、他は二塁打1本と単打2本で凌いでいるようである。
富山市郷土博物館
http://www.city.toyama.toyama.jp/etc/muse/tayori/tayori24/tayori24.htm
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