森茉莉5 ブラディ茉莉を、もう一杯

エコール・ド・茉莉

 

 

 

 森茉莉は、牡蠣の大好きな人だった。

 巴里に住んでいたころレストランで

生の牡蠣(カキ)をいつも3ダース食べたという。

 

「ドッキリチャンネル」には、その話も含め牡蠣についてのエピソードが

幾つか登場する。

 

 

 

 

 「・・・巴里(パリ)で・・・プリュニエという魚料理専門の店で、

生牡蠣(なまがき)一打(ダース)に、ケチャップとレモンを絞ってかける皿を

二打でも、三打でも頼むと出した。

 

食いしん坊の多い、巴里らしい、楽しさだった。」

 

 

 「プリュニエの生牡蠣は、牡蠣酢のようで素敵で、

三打でも食べられるというのが日本にはない。

 

 私はいつも三打たべたが、牡蠣の後(あと)は、

あさりの入った炒(いた)めご飯と、

 後(あと)はレタスのサラダ

 (たてに割ったレタスが半分、切り口を上にしてあり、

 上にトマトの薄切り一切れと玉葱(たまねぎ)のこれも薄切りが

 これも一切れ、のせてある。

 そこへフレンチ・ドレッシングがかけてあった)

 

と、珈琲(コーヒー)用の小さい茶碗の珈琲、そうして果物で終わりだった。

 生牡蠣を三打たべても丁度いいようになっている献立である。

 

 あの生牡蠣が主になった食事位、私の好きなものはなく、随分通ったものだった。」

 

ドッキリチャンネル(茂吉と私との類似、銀座の店員、ボーイたち) 

 

 

 

「プリュニエ」はフランス語で梅の木。

パリ・ヴィクトル‧ユーゴ通りのこの店ではないかとも言われている。

   http://www.prunier.com/ 1872年~

   よく見るとhuître(牡蠣)のメニューもある。

 

 

 森茉莉が巴里にいたのは19歳から20歳にかけての食べ盛りの頃ではあるが、

生牡蠣3ダースは恐れ入る。

 そもそも生でそれだけ食べるほどの嗜好と度胸(度腹?)はちょっと想像出来ない。

よほど牡蠣の味に魅入られた人だったのだろう。

  

 

 


ブラディ茉莉を、もう一杯

 

 

 「これも伯林でのレストランでのことである。

食前酒に、生(なま)の牡蠣(かき)の入った、トマト・ジュウスが出た。

 

 ・・・美味しかったので一気に半分ぐらい飲んだところ、気持が悪くなり、

吐きそうになったので、手洗いに行って吐こうと思って立ち上がって、

出口の方へ歩いた、までは覚えているが、

気が付くと、ボオイの部屋の、幅の狭い寝台に仰向けに横たわっていて、

夫だった人やその友人達の心配そうな顔が、見下(みおろ)していた。

 

何の酒が入っていたのか、ひどく美味(おい)しかった。

あれと同じカクテェルは何処(どこ)へ行ったらあるのだろう。

 

酒を少しずつ、量を多くして、いくらか飲めるようになってから、

もう一度、飲みたいと思う。」 

 

同(木苺とぐみ、ウォッカ、卒倒、ライム、ジン、平蔵の日・・・) 

 

 

 

 茉莉が飲んだという生牡蠣とトマト・ジュウスのカクテェルはどんなもの

だったのか。

 探索するうち、あるサイトに漂着することに。※1

 

 

 そこによれば、ウオッカとトマトジュースがベースの

カクテル「ブラディ・メアリー」。

 

 そのトマトジュースを、ハマグリやアサリのエキスが入った「クラマトジュース」に

替えたカクテルが「ブラディ・シーザー」なのだが、

その貝のダシを、生牡蠣から滲み出る旨味と牡蠣の殻に

入っている海水で補うというレシピが紹介されている。

 

「浸透圧の関係で、牡蠣の中のダシがカクテルと入れ替わり、

最後に残る「トマト牡蠣」も絶品! もはや牡蠣入り激ウマ冷製トマトスープ」

 

だそうである。

 

  

 「ブラディ・シーザー」は、1969年にカナダで考案されたもの。

森茉莉が飲んだのは、それより50年前のベルリンでのことである。

 

 従って直接の関連性はないのだが・・・

他に手掛かりもないので取りあえず再現を試みることにする。

 

 

◆そもそもドイツというとジャガイモとソーセージとキャベツの酢漬けの

イメージで、カキを食するというイメージが湧かないのだが、

鉄血宰相ビスマルク(1815-1898)は夕食に生牡蠣175個を食べたのが

自慢だったという。

 

 ことほどさように大変な美食家であり大食漢であり多くの料理に

その名を冠してもいる彼は、64歳の時点で体重120キロを超えていた。

 

 それでも平均寿命50歳の当時に83歳の長寿を保ったという。※2

 

 ヨーロッパの大都市に下水道が整備されるのは19世紀半ばであり、

当時の衛生環境も現代とは格段の差があったはずである。

森茉莉の生牡蠣3ダースでも感嘆してしまう身からすれば、

アンビリーバブルな鉄血宰相の鉄の胃に絶句・・・するほかない。。

 

 

※1 牡蠣ペディア/生牡蠣百科

  http://kakipedia.blog.jp/2016/bloody.html

 

※2 英国ニュースダイジェスト

http://www.news-digest.co.uk/news/features/1439-european-cooking-recipe.html

 

 

 

 

 

    ネットに出ているブラディシーザーのレシピを参考に

 

    グラスに氷を入れてウォッカを適量注ぐ。

次いで

・タバスコ、

・クレージーソルト、

・ウスターソース、

・レモン

などを少々加えてステア。

   生牡蠣1個を入れ、浸透圧効果?を期待してゆっくりと飲み始める。

 

 

 

・・・・・・・

 

    旨い。旨いけれども・・・

 

 

    悲しいかなカクテルには縁遠い味音痴の身、

やはり生牡蠣は別皿で肴として食した方がいいと思ってしまう。

 

 

   しかし さらにトマトジュースの銘柄や材料の組み合わせを変えて

再度挑戦したい。


・・・<ブラディ茉莉を、もう一杯>

 

 


牡蠣酢の生姜散らし

 

 

 

 こちらは和風料理。

 

 

 

 「牡蠣酢は牡蠣の酢の物で、これは誰でも作るがお芳さんのは

牡蠣の酢の物に、生姜(しょうが)の細かい角切り(かくぎり)を散らすので、

そうすると一寸としたことで見た目も味も粋になった。」

 

 同(昔の女言葉(花柳界、役者世界の)、お芳さん)

 

 

 

 「お芳さん」は、最初の結婚相手の父親(舅)の妾。

 新橋の芸者だった人である。

 ものごとのさばきも身の所作もこなれ

料理の腕も素晴らしい粋な女性だったらしく、

若い茉莉が心酔していた様子も描かれている。

 

 書いてあるとおりに牡蠣酢に適当な大きさに刻んだ生姜を散らしてみると

・・・これは美味しい。

 散らした生姜が牡蠣の豊潤な味を引き締める。

 

 ひと手間が江戸前のキリリとした粋を感じさせるような佳品である。

(お芳さんは広島出身なので広島風かもしれない)

 

 

 

 

森茉莉6に続く