広々とした水田地帯に、ぽつりぽつりと浮かぶ緑の浮島群
長喜城は、中世の豪族である沖野氏らがこの地に館を築き、“喜びに満ちた不朽の城であるように”との願いを込めて命名した屋敷名が、今日では地名として伝え残されているものと言われています。
長喜城には、「いぐね」に囲まれた数軒の屋敷がまとまって点在しています。いぐねとは、風雪から家屋敷を守るためや、食料や建材、燃料として利用するために敷地を取り囲むように植えられた屋敷林のことです。仙台を中心とした東北地方の太平洋側で広く使われている呼び名で、家を表す「い」と地境の「くね」から屋敷境を表したことが語源だと言われています。
仙台平野の水田地帯に緑の浮島のように見える「いぐね」は、先祖代々から引き継がれた農村での暮らしの知恵であり、また、農村の風土を形づくる独特の風景です。
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仙台平野周辺の農村では、奥羽山脈から吹き降ろす季節風から家を守るため、家の周りに作られた屋敷林「イグネ(居久根)」が多く見られる。「居」は住居、「久根」は仕切りという意味。
一面に広がる田んぼの海にぽっかり浮かんだ緑の島のようなこの林を、人々は親しみを込めて「イグネ」と呼んでいる。
仙台市若林区の長喜城地区にカメラを据えて、仙台平野の原風景ともいえるイグネのある暮らしを1年にわたって見つめる。
http://cgi2.nhk.or.jp/archives/tv60bin/detail/index.cgi?das_id=D0009010672_00000 (動画3分)
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また、同じ仙台市東部の六郷地区のイグネについて、「六郷を探る会」資料集(六郷市民センター)は次のように記している。
三、四十年前までは家屋の屋根はカヤぶきで、風が強いとカヤが飛んでしまい補修に苦労したようである。そのためにも樹木は風に強い杉やケヤキ、ヒノキなどの丈夫で大木になる木が植えられた。それ以前はハンノキがイグネの木としては一般的だったようですがスギなどに比べると、風に弱く台風によってしばしば折れてしまったということである。
それでもイグネは、住まいと暮らしをやさしく包んでくれ、夏は涼しく冬は保温効果もあり、住む人を快適にしてくれた。もちろんイグネは暴風雪のためだけではなく、たとえば梅、桃、柿、梨、グミなどの果樹は家族が楽しみにその実りを持つ木でもあった。おやつになったり、梅干しや干柿にしたりクリやクルミ、イチョウの実は大切な保存食であった。
スギの葉は燃料に欠かせなかった。燃料や食物だけでなく建築材にもなった。
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仙台平野の特徴的な風景だったイグネであるが、近年の衣食住や家族様式の変化、市街化の進展などに伴い、減少の途をたどっている。
環境の変化によって、かつてイグネを形成、維持させてきた必要性と効用の循環サイクルが希薄化あるいは途絶し、維持管理の負担をはじめとする所有の負の側面が相対的に肥大化を進めていることが、イグネの維持に深刻なダメージを与えているのだ。
東日本大震災の津波による流失や塩害による枯死により失われたものも多かったという。(主要な樹種の一つである杉が海水の塩分に弱かったともいわれる)
水田地帯に浮かぶ<浮島>とも表現されるイグネ・・・その言葉は変容し模索を続ける地域の共同体や家族の姿を象徴するようでもあり、時代性の中で漂うイグネ自身を示すようでもある。※
その貴重な風景が、ここにある。
※そのこと自体がすべてネガティブなイメージというわけでもない。ひょっこりひょうたん島もまた浮島だったのだから。
長喜城のイグネ
東西線荒井駅バスターミナル2番から「霞の目営業所行」で「十文字」下車。
六丁目駅から1.6キロ、徒歩20分
※真山青果の「南小泉村」ではイグネに「繞林」の字を当ている。繞(じょう、にょう)は、めぐる、囲む、まつわるの意。囲繞地(いにょうち)通行権。
五月も下旬ーいや、六月に入ってからかも知れない。朝の間はカラッと夏晴れて、単衣(ひとへ)をほしい位な天気であったが、午後(ひるすぎ)から、急に西曇がして、雲行が怪しく乱れる。低く広がると伝ふよりは寧(むし)ろ暈(ぼか)されるのだ。
特に家を出る頃からは、空気が重く凝って妙に冷気が身に染む。若葉の緑が際立って鮮やかに見えた。辺(あたり)が段々暗くなった。土橋を渡る時、道を横切って、真っ白な家鴨(あひる)がニ三羽、トットットッと鳥屋(とや)の方に急いでいく。
寂しい田舎道は両方から生ひ冠(かぶさ)る繞林(いぐね)の下を灰色に長く続いて見える。梢には風がざわつき始めた。
(南小泉村 第二)
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